『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説

<6> 僕にとっての「小説」は響かせる声である。

── 古川さんは無意識なのかもしれませんが、『4444』はwebに登場すべきビビットな小説ではないでしょうか。ウィルス、ノイズ、ゴースト、目に見えないものが漂流し増殖する空間としてネットがあり、一方に作中で「聖域」と名指された紙の空間がある。二項対立的にどちらが偉いという話ではなく、両方の特性が混じり合う今現在の小説のめぐる情況が読み込まれた、強い小説だと思います。

 僕は四六時中、小説のことを考えているから、そのアクチュアリティはどうしても出るでしょうね。「紙の本がなくなるか」みたいな話があるけど、僕にはどうでもいい。僕は小説を残したいんであって、そもそも紙の本がなくても、それが電脳箱の中だろうがCDだろうが、小説をつくってることに変わりはない。僕にとっての小説というのは読む字であると同時に響かせる声でもある。それが『4444』にはあらわれてると思います。
 欲しいのは一貫してスリルです。見たこともない、読んだこともない、何が始まって何が終わるのかわからないところに飛び込んでもらいたくて書いてますよ。

── 見たことがあるものや聞いたことのある安全なものに閉じこもっていくところを、無理にこじ開ける力を古川さんの作品には感じます。『4444』は何が書かれてあるのかがわからないスリルとつき合う小説ですね。そして「謎は謎のままでいいじゃないか」という気概を感じます。

 「やっぱりデヴィッド・リンチは偉い」っていう気持ちが反映されてる小説ですね(笑)。あんなにデヴィッド・リンチ好きの村上春樹の小説を、なぜ皆あれほど謎解きしたがるんだろう。
 文芸批評が質問と回答の答え合わせをする知的ゲームになってしまっている気がしていて。作り手は自分が何を書いているのかわからなくていいと思うんですよね。肉体と感情しかもってなくていい。それに対してそれぞれが読み解いて、逆にこっちに光をあたえてくれるような、そんな美しい関係の再構築を望みたいですね。『4444』もいろんな回答を見てみたい。「この本にはそんなことが書かれていたのか!」って驚いてみたいです。

── 4444人分の読解を集めてみたいですね。

(了)

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