『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説

<1> 前もって用意した構成はまったくなかった

── 『4444』は古川さんにとって初めての試みであるweb連載の作品です。毎週発表というのは非常に書く体力のいるペースだと思いますが、古川さんの発案ですか?

 本とちがってwebはいつでもアップできます。最初は編集者から「毎日更新しましょう」と言われたんですけど、「毎日書けるわけないでしょ」って即却下しました(笑)。でも隔週では間が開きすぎていておもしろくない。人間が可能なスケールとして毎週、そして読み切りの小説を発表していくことは、まだ誰もやってないことなんじゃないかなと思って。
 ちょうど今月44歳になるんですけど、44歳の誕生日に44本の短編がおさめられた本を出そうと思ったんです。そこで誕生日から逆算してスタートしました。

── 書き終えた手応えはいかがですか?

 毎回読者を裏切ってよく最終回まできたものだな、と。第一話をアップした直後は「とっても素敵な姉弟の話ですね」なんて言われたりしてました(笑)。

── 私も最初に読んだときは学校の話だとは思いませんでした。

 でもよく見ると最初から仕組まれてるでしょう。伏線は張り続けてるから。本になると、表紙を見て誰でも学校を連想できるようにはなりましたね。

── 全体像がなかなか見えにくい作品ですが、見通し図や構成をつくってから書きはじめたんですか?

 いや、全然ない。登場人物表にあたるクラスの名簿すらつくりませんでした。俺は基本的にどの小説も構成を用意しないんです。後になって「生年月日がずれてます」って指摘されたこともあるくらい。
 発表は毎週だったけど、二、三本ずつ半月に一回のペースで入稿していました。前日までに次のタイトルを考えて、タイトルがあるということは話が存在してるということだから、起きたらそれを書く。書き上げて二分後には入稿していましたね。雑誌に掲載するのとちがって、webはゲラがない。だから読み直すことがない。そこはまったく形式が違いました。作り方が違う以上、それに従ったほうがオリジナルなものができるはずなんです。そこは信用していましたね。

── 書く速度は変わらなかったですか?

 速かったですね、固有の文体がなかったから。長いものだと、最初に書いた文体に寄り添い続けるということにエネルギーが要るんです。でも今回はすべて文体を変えていいと決めてたから。

── 古川さんの小説はルビや文字組みに意識的だと思うのですが、webに掲載されるにあたって、ヨコ組みで読まれることが前提となる等、条件が変わったと思います。今回、意識されていた点は?

 とにかく最初に、ルビも傍点も書体の変化も使わないって決めました。使わないと決めるということは、逆にそれを使うってことと同じなんです。音と意味をずらして言葉に二重性をあたえることと、手を加えないというのは同じことで、言葉が本来もっているものから拾ってくるしかない。『4444』はそこに向かいました。

── 制限だとは感じませんでしたか?

 制限というのはクリエイティビティに直結しています。だからヨコ組みも全然気になりませんでした。ルビや傍点にこだわるとファイル形式に限定されるでしょう。そうすると端末がちがうとうまく見えないとか、ソフトウェアが必要だとかが起きてくる。そういうことはしたくなくて、僕は素のテキストのまま出したかったんです。
 一番大事だったのは、webでやる以上コピーフリー(編集部注:クリエイティブ・コモンズ・ライセンス)にすること。「テキストのコピーガードはどうしますか?」と聞かれて「そんなの、全部コピーできるようにする」って言ったんです。

── なぜコピーフリーにこだわったんでしょうか?

 インターネット上のものに課金するのは間違ってる。俺たちは所有することに対して金を払ってると思うのですが、データ化するということには所有という概念が通用しないのではないでしょうか。全員がもっているということは個人がもっていないということ。とにかく誰もがもてるように無線で繋がっているところに、壁をつくるようにして「あなたは所有してるから課金しますよ」っていうのは、お釈迦様の掌で強引にバリアをつくっているようなものじゃないかと思うんです。

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