『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説
41 だれの口から「家に帰ろう、ロバに乗って、アルミニウムの橋を越えて」との号令が発せられたのか?
それからこんな情景だ。
あたしは絵本作家になった。じつはあたしには才能があるのだ。ただし一冊ごとに出発点がちがう。タイトルから全部がはじまることもあるし。色からのこともあるし。もちろんキャラクターからのことだって。ちなみにあたしは色を塗るみたいに言葉が塗れる。それは感情にそれぞれ色彩があるのに似ている。それから感情がいろいろな動物にシンボライズされてもぜんぜん大丈夫だって現実にも。
たとえば?
怖いときは猿。笑えるときはシマウマ。でも苦笑の感情はインド象。
あたしはこんな話を思いついた。まず犬がいるのだ。そして犬が猫を飼うのだ。その猫が七面鳥を襲うのだ。そして七面鳥は……七面鳥は?
待って。
あたしが取りかかった新作はもうタイトルがついている。なかなかフックのあるタイトルで、それは『家に帰ろう、ロバに乗って、アルミニウムの橋を越えて。それが号令だよ』というのだ。でも、あたしが思いついている物語はこのタイトルに調和しない気がした。犬と猫と七面鳥のトライアングル・ラブ。もしかしたらロバが余計なのだろうか? ロバが邪魔者?
あたしは七面鳥にロバといっしょの逃走劇を演じさせようと考えて、その情景を頭に想い描いて、ああ、南北のアメリカ大陸のシンボライズみたいだなって思う。そうだ、あたしはアルミニウムの橋を越えられる。