『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説

35 何回ガチャガチャいった?

   
 それから僕はシジをする。ちゃんと電話でつたえる。これは携帯電話です。僕のポケットは携帯電話のハカバではありません。「でもね、でもねでもね、ハカバはあるの」と、かけてきた子が言う。その前に「どうしてママじゃないのにでるの?」と言う。僕はまず、ちゃんと携帯電話がマヨい込んできたことを説明した。これはどうにもならない。いつもいつも、僕は説明してきたけれど、これは勝手に起きる。僕の右のポケットで起きることが多い。左のポケットにはちっちゃなナイフが入っていて、僕は、このナイフで皮をむかないとフルーツが食べられない。あんまり大きなナイフは持っていると警官にショクムシツモンされるって、僕はマユねえに言われた。マユねえ、ねえの字は姉。でも僕は書けません。だってマユねえはいつもいるから。いる人を字にしたりはできません。
 それから携帯電話の子がふしぎなオハナシをした。
 オハナシをしながら「ママにそうだん、する」と言った。
 僕は「なにを?」とたずねた。「だって、でないでないの、まわしてもでないの」と言った。僕はぴんときました。だから説明した。「お金は入れたんだね?」って。「ちゃんと、ちゃんとちゃんと!」とその子は言った。僕の持っているこの携帯電話は僕がショユウしていいものではないから、僕はきちんと回答しようとする。その子がママにたずねているんだから、僕がシジしないとって思う。何回ガチャガチャいったか問い合わせながら、僕はほんとうにバス停の……ハカバなんてあるんだろうかと疑問に思う。でもなんだか、あるのがわかる。そして、そうしたオハナシの全部がはじまる前に。僕は電話に出たのでした。「はい、トトキです。こちらはトトキです。こちらは」

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