『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説
33 四四四
起立、礼。やぁ、そのままで。ちょっと着席を我慢しろ。今日は手紙を受けとったから、言うことがある。たしか落合の父兄からの……あぁ、姉さんからのか。おかしなもんだな。父兄ってチチとアニって意味だろ? どこに姉さんを入れたらいいのかな。これはPTAの大問題だ。そして、手紙だ。「いつもお世話になっています。中略。一が一であることはかまいませんし、いろいろな数が一になると証明されたとも聞きました。それも私的にはかまいません。ですが、妹に、そして妹のクラスメートに、無理数の説明をしないでもかまわないのでしょうか? 僭越ながら」……その、センエツってゆうのは、出過ぎてますがって意味だな、落合の姉さんは凄いな。十九歳だったか? 半端な大学生じゃないな。それで……「一分でわかる無理数講座を、ぜひとも担任の安東先生にお願いできればと、切に願っております。後略。かしこ」って、そうゆうことだ。だからな、この話だけはしよう。無理数だ。じつは一と二のあいだに、二と三のあいだに、三と四のあいだに、数がある。しかもそれは、分数じゃないんだ。だから、だから……。そんな無理数の転校生が来たら、先生はすこし、困る。しかしな、名前はつけられるよ。ルート転校生だ。
√。
さぁ復唱しよう。ルート。
黒板に書くからな。いい記号だろう? じゃあノートに写すために着席。
それからな。
三組と四組のあいだに学級はないからな。肝試しで、ちびるなよ。ありそうに見えたら幻覚だ。「四・四……」と数えてもういちど「……四」。この再確認の呪文で、魔除けをするんだぞ。うん、字あまりの定理だ。四四四。