『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説

20 どっちの五叉路? え、十叉路?

   
 あたしたちは待ち合わせをする。深夜。ばっちり夜中の三時。あたしたちは魔女だ。あるいは、あたしたちは魔女たちに目撃されるような存在だ。魔女にしか見ることのできない真夜中のハイカイ者って、なに?
「場所、わかった?」
「わかんないよー。終電出ちゃってるし。それ、駅と駅のまるっきり中間でしょ?」
「あのさ、お地蔵」
「え、地蔵?」
「そう、なんとか塚があるの。なんだったかなー」
「なんとか塚って、なに?」
「だからー」
「なんだったかなー」
「馬じゃない?」
「え、馬?」
 庚申塚の話だった。それから馬頭観音の。でも、そんなのを目印にするなんて、怪談すぎる。肝試しみたい。あたしたちは魔女だ、やっぱり。あるいは、あたしたちは魔女に試されてる存在? だとしたら魔女候補?
「青ざめる話、ある?」と一人めが訊いている。
「あるよー」と二人めが答えている。
「うそ」と三人め。
「ほんと」と四人め。
「こないだキャッシュカード落として」と二人めが答えている。
「ちがうの」と一人めが説明をはじめる。「現実的なのじゃないの。ほら、ホラーの」
「ああ、怪談」と五人め。
 あたしたちはつぎつぎ語る。五人めがいたら六人めがいてもいい。ただし、あたしたちには条件がある。この“あたしたち”の一員になるために、なれるためには、ほとんど先天的な条件が。要る。たとえば共通の話題。
「むかしさ」
「え、むかし……むかしむかし?」
「そう。学級新聞にさ」
「きょうは何人?」と割り込みの質問。
「あったねー、学級新聞」
「五人は超えてるね」と割り込みに回答。
「だれか今日、生理?」
「あたし」
「あたしも」
「微妙に、あたしも?」
「多いねー」
「で、場所わかった?」
「ちょっと待って。学級新聞が、どうしたの?」
「怪談特集、あったの、憶えとらん?」
「微妙に、憶えとるー」
「ああ、夏休み記念!」
「あれでしょ、柳本君のやってた学級新聞のことだよね」
「うん、四年の」
「そう、だから」
「四年四組の」
「あ、わかってきたー」
「え?」
「場所」
「ちかづいた? あのね、五叉路だよ」
 あたしたちは瞬間、黙る。いっせいに黙る。どうしてだろう? あたしたちは考えている。五叉路? 五? それから、数字? あたしたちは同時に、疑問やらイメージやらに捕らわれている。その集合性がきわめて魔女的だ。
「思い出した」
「思い出したね」
「思い出したぞ」
「思い出しました」
「学級新聞の名前。あれ——」
「あれ、ヨーヨーヨーヨーだったね」
「そう、挨拶の、ヨーヨー! ヨーヨー! で」
「そして数字の——」
「そう、四年四組から採った——」
「ハッピーな挨拶で数字の、『四四四四』で——」
「あたしたちの学級新聞・『四四四四』!」
 それからあたしたちは、言う。あたしたちは確認しあう。
 だれがそれを読んでいたのか?
 だれがそれをいまも保管しているのか?
 編集委員の柳本君はどうしているのか?
 あたしたちの四組に、何人いたのか?
 だれが、何人?
「いや、先生も読んでたよ」
「親も読んでました」
「職員室に、貼られてなかったっけ?」
「保健室には配られてたよね?」
「じゃあ」
「児童数は」
「ううん」
「いまは児童じゃない」
「いまは?」
「ねえ、どっちの五叉路?」と十一人めが言う。
 十一人め?
「それとも……え? 十叉路?」
「しー」

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