『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説

12 なにが、こたつで、だれが、ママ?

   
 女の子が言った。もしもわたしがお母さんになったら。むかしむかし、じゃない、未来未来。わたしはすてきな結婚をするでしょう。わたしは旦那さんの子供を妊娠するでしょう。わたしはママになる準備をするでしょう。わたしは産むでしょう。うわさによれば、それはほんとうに痛いでしょう。出産はおおかた悲鳴をともなうでしょう。しかし生まれた赤ちゃんも悲鳴をあげるでしょう。その悲鳴はオギャアでしょう。産声のあとに成長があるでしょう。かわいい子供はわたしの年齢を超えて、わたしよりも年長になって、中学生に、高校生に、もしかしたらそれ以上の大人になるでしょう。わたしはわたしよりも大人をこの世に生み出すために結局は痛い思いをしたのでしょう。わたしはわたしよりも大人になったわたしの子供にがっかりするでしょう。わたしはその子供が社会人になったりもしかしたら就職できずにひきこもったりする前に、自分でひきこもるでしょう。わたしはママだから、ちゃんとした主婦だから、まずはリビングを拠点にするでしょう。小さいほうがいいから、わたしはこたつを出すでしょう。わたしはこたつのなかで暮らしはじめるでしょう。それからわたしは言うでしょう。ああ、猫が飼いたいな。でも、どこで?
 ここで。
 そう答えたのは小さな女の子だった。

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