『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説

6 どうしてWWWMMM?

   
 あたしたちはふりをする。空気が見えるふりをする。ぶつからないように回避するふりをする。でも空気は遍在していていて、あたしたちは大いに対応に困る。それでもあたしたちは空気が見えるふりをして、ぶつからないように回避するふりをして、布をかぶって練習までする。あたしたちは籠のなかにいるわけではないのだ。あたしたちは動かなかったら死んでしまうのだ。あたしたちの一人が声をだす。もちろん声は空気を振動させる。音響はそんなふうにして生まれるんだから。つまり、声はつねに危険性をはらんでいる。振動する空気はもちろん、あたしたちに見える。ただし発せられた言葉がそのまま形になるのではない。むしろ波のようなものに変わって、それが空気語だ。振動の波。あたしたちの目にはWという字がしばしば見える。それからM。ときにはWはつらなってWWWとなり、MもまたつらなってMMMとなる。あたしたちはそんな空気語が見えるふりをする。あたしたちは空気語の命令をきちんと理解できるふりもする。あたしたちは空気語の世界に生きる人間たちとなる。もちろん、そこには子供たちがいる。もちろん、空気語の学校もある。あたしたちの目に未来が見える。それよりも、しょっちゅう過去が見える。未来、過去。学校。それからあたしたちは空気語のない世界に所属しているふりをして、うめく。「安東先生?」

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