『4444』刊行記念 古川日出男ロングインタビュー 読むたびにかたちを変える小説

26 どのくらい多くのマコーレー・カルキン・フルスロットルがいたのだろうか、かつて?

   
 堅士君(ところでこの漢字、合ってる? ケンジ君)。
 わたしたちはマコーレー・カルキンといっしょに生きてきました。
 忘れちゃったかな。
 たとえば『リッチー・リッチ』って映画、おぼえてる?
 忘れちゃったかな。
 もちろん『ホーム・アローン』はおぼえてるはず。わたしたちは春夏秋冬、真似しました。あのポーズ。頬に両手をあてて、「あー!」って言うやつ。
 あの映画でマコーレー・カルキンは“世界一有名な子役”になって。
 だからアジアの(大陸と半島と海の)東のほうの終わり、まさにワールズ・エンドの列島にいるわたしたち少年少女にも真似されて。
 でもね。
 わたしたち、リアルタイムでそれに付きあってたわけじゃないね。
 勝手にね。勝手に「カルキン・ブーム」起こしたんだよね。
 そう。
 勝手だよね……。
 そしてわたしたちは知ったの。
 知ったのだった。
 そのことを知ったんでした。“世界一有名な子役”のフルスロットルな、生きる軌跡。あまりに全速力な……。
 さあ、思い出して。
 堅士君、だから『リッチー・リッチ』を思い出して。
 あれ、マコーレー・カルキンの、二十世紀最後の映画だったんだよ。『ホーム・アローン』からたった……四年。そう、四年だ。
 まだ一九九〇年代の前半の制作で。
 俳優、引退することになったんだよね。
 子役なのに……。
 わたしたち、それで「あー!」って言ったんだよね。世界一は、つらいなぁって。両親が(じつのパパとママが)ギャラで揉めたとか、それってマコーレー・カルキンの出演料なのに。
 なのにね。
 ねぇ。
 ボロボロになるんだなぁって。世界一になるのって最悪、たぶん二でも、三でも、きっと世界三〇〇とか三〇〇〇でも。だれにも知られないほうがいいな、わたしたち、だれからも相手にされないのがいいな、それが結論でした。つまり「あー!」って叫んでても、なにを時代遅れでバカな……って思われるほうが。
 子供の発想なんだろうか。
 それ、子供らしい発想だった?
 逆だった?
 わたしたちはちゃんと一〇〇%の少年少女、してましたか?
 それを問いたい。だから。
 堅士君、『リッチー・リッチ』を想い起こして。それから、わたしのことも思い出して。
 さあ、一通めのメールです。

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