2012.03.23
ディエンビエンフーの休載と311以降の連載について。
プー!あるいはシンチャオ! 西島です。
2011年に9集が出ましたが『ディエンビエンフー』はそれ以前から雑誌掲載から描き下ろしに移行しています。これは何かのトラブルではなく、相談したうえで決定したことですし、僕はもともと描き下しデビューによる『凹村戦争』でマンガ家としての活動をスタートしているから、「連載なし」というのは自分のスタイルにぴったりと考えていました。現在もネームや物語完結までの全体の構成をまとめる作業は進めています。
と言いいながら、現在モーニングツーで『すべてがちょっとずつ優しい世界』を、JUMP改で『Young, Alive, in Love』をげんきいっぱい連載中。『ディエンビエンフー』ほったからしでは? と思われてもしかたないですね・・・すみません。
現在連載中の作品は、あまり声高に言わないようにしていますが、どちらも明確に原発事故由来のテーマです。そこまで言わないまでも、311以降の僕の考え方が反映されています。ツイッターでたまにつぶやく謎のキーワード「除染と除霊どちらも視えない」「UMAも裏社会、視えそうで視えない」「ゴーストバスターズは背中に無認可の小型原子炉を背負いゴーストを捕まえる・・・」などは、この原発事故以降の世界を良くするための思考です。
311以降においての創作、想像力の役目も考えます。例えば僕は「ラジウムおばさん」「汚染水を飲む」という言葉にどうしてもひっかかってしまいます。言葉として面白すぎるというか、現状原子炉がどうなっているのか放射能は安全なのか政府への不信はどうすれば・・・という議論を超えて、強い印象を残す言葉です。つまり想像力の言葉として秀逸すぎるのです。ウケるーっていう。で、作り手はまず「ラジウムおばさん」みたいな強い言葉と戦っていかなくてはならいなと思うわけです。それよりもクレイジーな斜め上を飛んでいく発送をしないと負けてしまう、とすら考えています。
(ちょっと意味が良く分からないかもしれません、思考が先走っています。ぜひ二つの連載を読んでください)
『ディエンビエンフー』は1960年のベトナム戦争を描いた物語です。原発事故とその後の報道の流れを受けて、僕は「あ、なんかこれベトナム戦争みたいだな」と感じました。東電定例発表(問題はないと評価している)はウエストモーランド将軍の定期報告会(アメリカは順調に勝利している)みたいだなと思ったし、慣れない単位が飛び交う原子力発電には「人間コンピューター」と呼ばれたロバート・マクナマラ的なマッド・サイエンスを感じる。右も左もわからず一旗揚げるべくベトナムの戦場に駆り出された写真家やジャーナリストは、IWJやニコニコ動画のクルー、ニュースでは流れない動画をUPする個人のようだなって思いました。ネットの発達によって、ベトナム戦争のときのような(もちろん僕はそれを目の当たりにはしていませんが)ジャーナリズムが少しずつ戻ってきているような気もします。
要は僕は今のこの状況を「なんだかちょっと戦争のようだ」と感じています。久々訪れた渋谷が暗かったときも同じように感じました。『ディエンビエンフー』を描くことで僕にとって最も身近な戦争は第二次ではなくベトナム戦争。なんだかベトナム戦争みたいになってきたぞ、そんな風に考えています。しかし僕は現在を生きる人間でもあるので、この現在こそを今すぐにでも描きたい衝動にもかられています。無謀な戦場カメラマンのように。その結果が、『すべてがちょっとずつ優しい世界』と『Young, Alive, in Love』、ふたつの新連載です。
分析すると、僕はベトナム戦争に遭遇したカメラマンのような気分で、311に向かい合っているのだろうなという気がしています。というか、『ディエンビエンフー』を描くことで311以降の世界に対する心の準備はできていたのかもしれないし、いやそもそも『ディエンビエンフー』という作品にこそ原子力は内包されていたわけで(ヒカル・ミナミは広島に原爆が落ちた日に生まれたリトル・ボーイです)、えーとえーと。そんなふうに僕の思考はこのごろ1960年代と2011、311以降を行ったり来たりしています。
とにかく言いたいことは『ディエンビエンフー』をほったらかして311モードになっているわけではないということです。『ディエンビエンフー』と同じような動機でふたつの新連載に取り組んでいます。ふってわいた原発脳ではないよ、『ディエンビエンフー』忘れてないし考えてるよ。そんな気分なのです。
ネームは10巻の4話目まで進んでいます。あいつもこいつも死にまくっているんで、親愛なる読者のみなさまそこんとこよろしくー!
(西島大介)
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